2008年10月 4日 (土)

論文のインパクトは、インパクトファクターの2乗に比例する!?

ネイチャー、セル、サエンスは、続に「三誌」と呼ばれ、科学雑誌の視聴率のような指標であるインパクトファクターは30前後である。言うに及ばず科学界で出版される数千に及ぶ学術雑誌の最高峰である。

次のランクの雑誌は、ネイチャーやセルの姉妹紙と呼ばれるものであり、Nature Cell Biology(細胞生物学に関する論文を集めたネイチャーの姉妹紙)、Nature Neuroscience (神経科学に関する論文を集めたネイチャーの姉妹紙)Developmental Cell(発生生物学のジャンルにおけるCellの姉妹紙)など、20誌程度が発行されている。これらの雑誌は、ネイチャーやセルに載せるには、多少専門的過ぎる(多少インパクトが欠ける?)けれども、それぞれのジャンルでは超一級の発見である場合に掲載される。こういった姉妹紙はインパクトファクターが15から20程度である。

ある研究者が「私はネイチャー姉妹紙に論文を2報書いたから、15+15=30でネイチャーを1報書いたのと同じくらいの業績だ」と、言うことを聞いたことがあるが、これは的を得ているのだろうか?

そもそも、インパクトファクターは雑誌のレベルであり、論文のレベルではないという大前提から言ってもおかしいのであるが、それ以前に雑誌のレベルとしても、研究者の感覚的には、もっと差があるように感じる。

ネイチャー1報と、ネイチャー姉妹紙4報ぐらいで釣りあうのではないかと、いうくらいの感覚である。おそらく何十年という長い目でみた総引用件数の平均値はそんなものではないだろうか。

そこで、インパクトファクターの算出される原理から考えてみた。

数千の科学雑誌についてインパクトファクターを算出している企業、トムソン社によるとインパクトファクターとは以下のような計算をしている。

A=2003年、2004年に雑誌Pに掲載された論文が2005年中に引用された回数
B= 2003
年、2004年に雑誌Pが掲載した論文の数
雑誌P2005年のインパクトファクター=A/B

http://www.thomsonscientific.jp/products/jcr/support/faq/#1

インパクトファクターとは、ざっくりと言えば、「ある雑誌に論文を発表した次の1年間に、他人が自分の論文を引用してくれる回数の平均値」である。そういう意味で、その雑誌の視聴率のようなものなのだが、注意して欲しいのは、「1年間」に引用される回数というところである。

ネイチャーなどに載った、大発見は、インパクトファクターの換算される発表から2年間だけではなく、その後、10年、いや何十年にもわたって、長期間、引用され続ける可能性が高い。それゆえ、その論文の実際のインパクトというのは、短い一定期間の引用件数(高さ)というよりは、長期間での引用件数の総和(三角形の面積)なのである(図を参照)。

Photo

そこで、今回のタイトル「論文のインパクトは、インパクトファクターの2乗に比例する!」という仮説に行き当たったのである。

まあ、実際には、実際に2乗かどうかは、大きな発見が引用され続ける期間(三角形の底辺の長さ)というものが、短い一定期間に引用される回数(インパクトファクター=三角形の高さ)に比例するかどうかは、実際のデーターを調べてみなければわからないのだが、少なくともインパクトファクター30と15の差は、2倍どころではないということは、明らかだろう。

そのような理由で「ネイチャー姉妹紙に論文を2報書いたから、15+15=30でネイチャーを1報書いたのと同じくらいの業績だ」というのは、間違っているという結論に至るのだが、いずれにせよ、姉妹紙レベルを2報も書いていれば、すごい研究者であることには変わりない。

2007年5月26日 (土)

ノーベル賞とネイチャー級の研究との距離

ボストン・レッドソックスでは、この春、松坂が大活躍しているが、彼が世界のスーパースターになるまでには、どれほどの難関をくぐってきたことだろう。

まずは、小学生リーグで頭角を現し、中学で天才と騒がれ、野球部の有名な高校に入学する。高校野球で甲子園に出れば、地元ではちょっとした有名人になるが、そんな球児は全国に何千人とおり、そこからプロになることができるのは、ほんの一握りである。それだけの競争を勝ち抜いて、やっとプロになれたとしても、こうやってアメリカメジャーリーグで活躍できる選手になれるのは、さらに何百人に一人だろう。

プロ野球選手にあこがれる小学生の中から、実際に世界のスーパースターになれるのは、数百万人に一人ぐらいのものだろう。

科学の世界で、スーパースターといえば、真っ先に思いつくのは、「ノーベル賞受賞者」だ。日本人の受賞者は、この100年間で9人しかいない。

(湯川秀樹, 朝永振一郎, 江崎玲於奈 ,福井謙一 ,利根川進 ,白川英樹 ,野依良治 ,小柴昌俊, 田中耕一 

ノーベル賞は、科学の大発見に対して与えられるのだが、その多くは、ネイチャー級の一流雑誌に掲載された研究である。

(ノーベル賞を受賞する研究の中には、発表当時は先端的すぎて、一流雑誌に掲載されなかったものもしばしばあるのだが。)

このブロクの第一話で、「ネイチャーに論文を載せることは研究者の夢だ」と書いた。

では、ネイチャー級の論文の中でどのくらいにひとつの研究がノーベル賞を取りうるのだろうか?

まず、研究の全体から考えると、インパクトファクターを算出する会社、トムソン社の統計によると、世界中で1年間に発表される自然科学系の論文は約100万報もある。

これに対し、ネイチャーに掲載される論文は、年に約1000報。ネイチャーと並ぶ有名雑誌、science誌やcell誌、その姉妹誌などを含めると、2、3千報ぐらいが「一流の研究」ということになるだろう。ネイチャー級の論文になるのは、一般に行われている科学研究の300から500に1つの大発見ということになる。

科学分野のノーベル賞は、毎年、物理、化学、医学の3ジャンルからそれぞれ、1から3人づつが選ばれるので、年間、3から9人の科学者が受賞することになる。普通、ノーベル賞を受賞するのは数個の主要な論文に対してであるが、その中に1つはネイチャー級の論文が含まれるとすると、大雑把に言えば、ネイチャー級の論文の中で、更に、300から1000にひとつの、超大発見だけが、ノーベル賞を受賞するという計算になる

ハーバードで研究していても、ネイチャー級の論文を書いた研究者が回りにごろごろいるというわけではない。ネイチャー級の論文を書いた研究者は大抵、その学科では有名人である。ノーベル賞というのは、そんな各分野で超一流の研究者を世界中から数百人集めて、その中ではじめて一人が受賞するというレベルの代物なのだ。

野球の世界に例えて言うなら、普通の論文を書いている研究者が甲子園に出場経験のある選手(日本で数万人)とすれば、ネイチャー級の研究を成し遂げた研究者が、日本のプロ野球で活躍する選手(日本で数百人)。そして、ノーベル賞受賞者は、メジャーリーグでも有名になっている松坂やイチロー級の選手(日本人で数人)ということになるだろうか。

ちなみに、ハーバード大学出身のノーベル賞受賞者は37人だそうだ。ひとつの大学で日本全体の4倍の人数である。

余談になるが、私も実際に、身近で偶然にも、ノーベル賞受賞者のひとりに知り合う機会があった。何度かご自宅にお邪魔したのだが、印象的だったのは、奥様が我々の会話の相手をされている間に、ノーベル賞受賞者の先生自らが、食器を下げて洗いものをされておられたことだった。偉大な業績を残されてなお、家事の手伝いを自然に行っている姿に感銘を受け、私もできるかぎり家事を手伝うことに決めた。

2007年2月18日 (日)

インパクトファクターは科学雑誌の視聴率

インパクトファクターとは、その科学雑誌のレベルを測る指標である。例えば、ネイチャー、セル、サイエンスなど世界最高峰の雑誌だと、インパクトファクターは30前後である。前回、「インパクトファクターは科学雑誌の視聴率のようなものだ」と書いたが、正確には、「その雑誌に掲載された1つの論文が1年間に平均何回、他の論文に引用されるか」という数値である。この30という値は、例えば、ネイチャーに掲載されている論文は、1年間に平均30報の論文に引用されるということを示している。

何人ぐらいの研究者がその論文を読んでいるのか大雑把に計算してみた。5人の研究者のいるラボで1人が平均1日1報程度論文を読むとして、1年5人で1500報。1年間で2報出版するとして、そこに引用する論文数が100報、そのうち、1つの年度の論文は10か20といったところだろう。そうなると、1年で1つのラボがインパクトファクターに換算される論文の数は15報ぐらい、読んでいる論文は1500報ぐらいとなる。インパクトファクターの大体100倍ぐらいの研究者がその論文を読んでいるという計算になる。

ネイチャーの場合だと、インパクトファクター30だから、おそらく3000人程度の研究者が、その論文を読んでいるということになる。この数が、世界中のその研究分野に関係する、ほとんどの研究者が一応は目を通すという論文のレベルなのだろう。

前述したように、研究者なら誰しも、ネイチャー級の影響力のある科学雑誌に自分の論文を掲載したいと思うのだが、雑誌の編集者による審査が非常に厳しく、なかなか「合格(アクセプト)」となることは難しい。では、「不合格(リジェクト)」の場合はどうするのか?ほとんどの場合は、次のランクの科学雑誌(インパクトファクターの低い雑誌)に再投稿するということになる。そうやって、上から順に再投稿を繰り返し、掲載してくれる雑誌を探してゆくのである。

例えば、バイオ系でいえば、科学雑誌のレベルは、おおまかに考えて、私は以下のようなレベルに分かれると考える。

1)ネイチャー、セル、サイエンスなどトップクラスの総合誌(インパクトファクター30前後)
2)「癌研究」や「神経系の研究」、「構造生物学」といった各分野で、トップクラスの雑誌(インパクトファクター10から20程度)
3)アメリカ生化学会誌を初めとする中堅雑誌(インパクトファクター3から7程度)
4)ほとんど読まれることのない雑誌(インパクトファクター2以下)

1)は、これまでに書いてきたように、科学研究一般総合誌の一流雑誌で、インパクトファクター30前後。

2)は、各分野で、トップクラスの雑誌はインパクトファクター10から20ぐらいの値に落ち着くようである。例えば、癌であれば、「Cancer Cell」、神経であれば「Neuron」、構造生物学であれば「nature structual biology」のような雑誌である。アメリカ科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS))は総合誌であるが、ネイチャーなどのトップクラスの総合誌に掲載されなかった場合、再投稿する人が多いという意味で、このレベルに属すると思われる。このレベルの論文から、一般の科学ニュースの記事になることも多い。

3)は、そこそこの数の研究者に読まれ、科学雑誌として活躍している雑誌であれば、インパクトファクター3から7程度にはなるもののようだ。アメリカ生化学会誌(Journal of Biological Chemistry)は、世界中の科学雑誌の中で最も多くの論文を掲載するマンモス雑誌であるが、毎週、電話帳のように分厚い雑誌本が送られてくる。私が、大学院生の頃、このレベルの雑誌に掲載されるのさえ、何年に1回もないくらいのまれなことだと聞き、愕然としたことを覚えている。この分厚い週刊誌のたった5、6ページを割いてもらうのために、何年も実験し、それでもなかなか掲載されないのかと思うと、ぞっとしたものだ。世界の科学研究の進展を支えているほとんどの論文はこのレベルの雑誌に掲載される。このレベルの雑誌から、教科書にも引用されることも多い。

4)このレベルになると、「書くことはあっても読むことはまれ」と言われる類の雑誌となる。発表しないでラボで腐らせるよりは、人の目の触れるところに形にして発表しようという意味合いが大きい。大学院生の論文出版の練習としての機能を果たしているという一面もあり、私も、以前は大変お世話になった。とは言っても、まれに、革新的すぎて時代に理解されなかった重要な論文が掲載されることがあるのも事実。

誤解のないように、付記させていただくが、インパクトファクターはあくまで、その科学雑誌の「平均」引用回数であり、そこに掲載される論文がどれだけ引用されたという実質的な科学への貢献度を示すものではないということだ。実際には、ネイチャーに載ったような論文でも、捏造であったり、怪しいデータであった場合などは、後世に引用されることは極端に減るし、インパクトファクター2のマイナー雑誌にしか載せてもらえなかった論文でも、後々、大発見だったということがわかり、100以上の引用を勝ち取ることも実際にはある。そういう意味では、インパクトファクターは「雑誌の視聴率」であり、「個々の論文自体の視聴率」ではないということは注意しておきたい

2006年12月28日 (木)

「大発見」とは、どういう発見をいうのか?

私が、学生の頃、ラボの助教授が、論文を書いては「これは大発見だ!」とよく言っていたものである。学生の私には、それがどの程度重要な発見か、全くわからなかった。その発見は、もの凄く小さなジャンルで特別な研究に対する発見であるようにも見えるが、それは単に自分の専門知識が足りなくてそう見えるのだけかもしれない。専門的すぎて、どの程度重要な発見なのか学生では理解できない。

しかし、教授陣でさえも、少しジャンルが離れれば、ある学生が発見した事柄を、どの程度重要な発見かその場で評価するのはそうそう簡単なことではない。

ネイチャーに載っている大発見をしたことが明らかな論文でさえ、自分の専門ジャンル以外であれば、たいした発見でないように見えることも多い。自分が専門としているジャンル以外の発見というのは、予備知識なしでは、その発見の重要性などわからないのだ。

しかし、論文として発表されている90%以上は、もの凄く小さなジャンルの特別な発見である。研究者個人にとっては、大発見かもれいないが、世間から見れば、ほとんどが「たいしたことのない発見」なのである。

それでは、どうすれば、その発見が、大発見かどうか客観的に判断することができるか?その判断基準のひとつは、「後々の他の研究者たちの書いた論文に引用される件数」という数字である。論文の末尾には、必ず引用文献リストというものを載せる。「私は以前に発見されたこれこれの論文の情報をもとに、この発見をしました」という論文のリストである。大発見であればあるほど、その論文をこの引用文献リストに入れる人が多くなるので、「引用される件数」は自然と多くなる。「引用される件数」とは、例えて言うなら、テレビ番組の視聴率のようなものである。この「引用件数」の多い論文ほど、多くの研究者の支持を得ている大発見ということになる。大発見なら数百件の論文に引用されるが、世間に出回っているほとんどの論文の引用される件数は5件以下である。

大発見かどうかを調べるには「引用される件数」を調べるのがベストなのだが、困ったことに、大発見かどうかわかるまでに、何年も時間がかかるということだ。

以前は、出版された時点での、その論文を評価する方法はほとんどなかった。

そこで、編み出されたのが「インパクトファクター」という指標である。

インパクトファクターとは、引用件数を元に、その科学雑誌がどの程度、科学界に影響を与えているかと言う「テレビの視聴率」のような役目を果たす数字である。

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