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2007年2月18日 (日)

インパクトファクターは科学雑誌の視聴率

インパクトファクターとは、その科学雑誌のレベルを測る指標である。例えば、ネイチャー、セル、サイエンスなど世界最高峰の雑誌だと、インパクトファクターは30前後である。前回、「インパクトファクターは科学雑誌の視聴率のようなものだ」と書いたが、正確には、「その雑誌に掲載された1つの論文が1年間に平均何回、他の論文に引用されるか」という数値である。この30という値は、例えば、ネイチャーに掲載されている論文は、1年間に平均30報の論文に引用されるということを示している。

何人ぐらいの研究者がその論文を読んでいるのか大雑把に計算してみた。5人の研究者のいるラボで1人が平均1日1報程度論文を読むとして、1年5人で1500報。1年間で2報出版するとして、そこに引用する論文数が100報、そのうち、1つの年度の論文は10か20といったところだろう。そうなると、1年で1つのラボがインパクトファクターに換算される論文の数は15報ぐらい、読んでいる論文は1500報ぐらいとなる。インパクトファクターの大体100倍ぐらいの研究者がその論文を読んでいるという計算になる。

ネイチャーの場合だと、インパクトファクター30だから、おそらく3000人程度の研究者が、その論文を読んでいるということになる。この数が、世界中のその研究分野に関係する、ほとんどの研究者が一応は目を通すという論文のレベルなのだろう。

前述したように、研究者なら誰しも、ネイチャー級の影響力のある科学雑誌に自分の論文を掲載したいと思うのだが、雑誌の編集者による審査が非常に厳しく、なかなか「合格(アクセプト)」となることは難しい。では、「不合格(リジェクト)」の場合はどうするのか?ほとんどの場合は、次のランクの科学雑誌(インパクトファクターの低い雑誌)に再投稿するということになる。そうやって、上から順に再投稿を繰り返し、掲載してくれる雑誌を探してゆくのである。

例えば、バイオ系でいえば、科学雑誌のレベルは、おおまかに考えて、私は以下のようなレベルに分かれると考える。

1)ネイチャー、セル、サイエンスなどトップクラスの総合誌(インパクトファクター30前後)
2)「癌研究」や「神経系の研究」、「構造生物学」といった各分野で、トップクラスの雑誌(インパクトファクター10から20程度)
3)アメリカ生化学会誌を初めとする中堅雑誌(インパクトファクター3から7程度)
4)ほとんど読まれることのない雑誌(インパクトファクター2以下)

1)は、これまでに書いてきたように、科学研究一般総合誌の一流雑誌で、インパクトファクター30前後。

2)は、各分野で、トップクラスの雑誌はインパクトファクター10から20ぐらいの値に落ち着くようである。例えば、癌であれば、「Cancer Cell」、神経であれば「Neuron」、構造生物学であれば「nature structual biology」のような雑誌である。アメリカ科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS))は総合誌であるが、ネイチャーなどのトップクラスの総合誌に掲載されなかった場合、再投稿する人が多いという意味で、このレベルに属すると思われる。このレベルの論文から、一般の科学ニュースの記事になることも多い。

3)は、そこそこの数の研究者に読まれ、科学雑誌として活躍している雑誌であれば、インパクトファクター3から7程度にはなるもののようだ。アメリカ生化学会誌(Journal of Biological Chemistry)は、世界中の科学雑誌の中で最も多くの論文を掲載するマンモス雑誌であるが、毎週、電話帳のように分厚い雑誌本が送られてくる。私が、大学院生の頃、このレベルの雑誌に掲載されるのさえ、何年に1回もないくらいのまれなことだと聞き、愕然としたことを覚えている。この分厚い週刊誌のたった5、6ページを割いてもらうのために、何年も実験し、それでもなかなか掲載されないのかと思うと、ぞっとしたものだ。世界の科学研究の進展を支えているほとんどの論文はこのレベルの雑誌に掲載される。このレベルの雑誌から、教科書にも引用されることも多い。

4)このレベルになると、「書くことはあっても読むことはまれ」と言われる類の雑誌となる。発表しないでラボで腐らせるよりは、人の目の触れるところに形にして発表しようという意味合いが大きい。大学院生の論文出版の練習としての機能を果たしているという一面もあり、私も、以前は大変お世話になった。とは言っても、まれに、革新的すぎて時代に理解されなかった重要な論文が掲載されることがあるのも事実。

誤解のないように、付記させていただくが、インパクトファクターはあくまで、その科学雑誌の「平均」引用回数であり、そこに掲載される論文がどれだけ引用されたという実質的な科学への貢献度を示すものではないということだ。実際には、ネイチャーに載ったような論文でも、捏造であったり、怪しいデータであった場合などは、後世に引用されることは極端に減るし、インパクトファクター2のマイナー雑誌にしか載せてもらえなかった論文でも、後々、大発見だったということがわかり、100以上の引用を勝ち取ることも実際にはある。そういう意味では、インパクトファクターは「雑誌の視聴率」であり、「個々の論文自体の視聴率」ではないということは注意しておきたい

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インパクトファクターについて「めざせネイチャー、ハーバード大学、研究留学」で重要なことが論じられていた。 ********************************************************************************* 誤解のないよう... [続きを読む]

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