トップページ | 2007年2月 »

2006年12月28日 (木)

「大発見」とは、どういう発見をいうのか?

私が、学生の頃、ラボの助教授が、論文を書いては「これは大発見だ!」とよく言っていたものである。学生の私には、それがどの程度重要な発見か、全くわからなかった。その発見は、もの凄く小さなジャンルで特別な研究に対する発見であるようにも見えるが、それは単に自分の専門知識が足りなくてそう見えるのだけかもしれない。専門的すぎて、どの程度重要な発見なのか学生では理解できない。

しかし、教授陣でさえも、少しジャンルが離れれば、ある学生が発見した事柄を、どの程度重要な発見かその場で評価するのはそうそう簡単なことではない。

ネイチャーに載っている大発見をしたことが明らかな論文でさえ、自分の専門ジャンル以外であれば、たいした発見でないように見えることも多い。自分が専門としているジャンル以外の発見というのは、予備知識なしでは、その発見の重要性などわからないのだ。

しかし、論文として発表されている90%以上は、もの凄く小さなジャンルの特別な発見である。研究者個人にとっては、大発見かもれいないが、世間から見れば、ほとんどが「たいしたことのない発見」なのである。

それでは、どうすれば、その発見が、大発見かどうか客観的に判断することができるか?その判断基準のひとつは、「後々の他の研究者たちの書いた論文に引用される件数」という数字である。論文の末尾には、必ず引用文献リストというものを載せる。「私は以前に発見されたこれこれの論文の情報をもとに、この発見をしました」という論文のリストである。大発見であればあるほど、その論文をこの引用文献リストに入れる人が多くなるので、「引用される件数」は自然と多くなる。「引用される件数」とは、例えて言うなら、テレビ番組の視聴率のようなものである。この「引用件数」の多い論文ほど、多くの研究者の支持を得ている大発見ということになる。大発見なら数百件の論文に引用されるが、世間に出回っているほとんどの論文の引用される件数は5件以下である。

大発見かどうかを調べるには「引用される件数」を調べるのがベストなのだが、困ったことに、大発見かどうかわかるまでに、何年も時間がかかるということだ。

以前は、出版された時点での、その論文を評価する方法はほとんどなかった。

そこで、編み出されたのが「インパクトファクター」という指標である。

インパクトファクターとは、引用件数を元に、その科学雑誌がどの程度、科学界に影響を与えているかと言う「テレビの視聴率」のような役目を果たす数字である。

2006年12月26日 (火)

研究者の夢、「ネイチャー」とは

日本人にとって、以前はそれほど有名でもなかったアメリカの都市、ボストン。それが、最近、松坂投手がボストンを本拠地とする球団レッドソックスに入団することとなり、にわかに有名になってきた。

ボストンは、ニューヨークからバスで4時間ほどの距離にあり、人口400万人のアメリカでも有数の大都市である。北米では歴史のある古い町並みが残ることで知られ、日本で言えば、京都のような存在である。ボストンは京都と同様、学生の街としても知られ、ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)を始め、いくつかの世界トップクラスの大学があることでも有名である。Photo
これらの有名大学には世界中から、研究者が集い、ノーベル賞クラスの研究もこのエリアから毎年のように排出されている。研究者として留学する日本人も多く、ボストンに在住の日本人約5000人のうち、かなりの部分が研究者と思われる。

私は、日本では製薬企業の研究者として研究を進めてきたが、3年前、一念発起して、ハーバード大学の研究員のポジションに応募した。運良く、こちらのポジションに受け入れが決まり、会社を退社してハーバード大学の研究員として勤務することになった。
なぜ、安定した製薬会社の職を捨ててまで留学したのか?とよく聞かれるのだが、理由はいくつかある。「海外に住んでみたかった」とか「英語を上達させたかった」とか安易な理由もある。しかし、最も大きな理由は「ネイチャー級のいい論文が書いてみたい」ということだった。

「ネイチャー」とは何か?ネイチャーとは英国の有名科学雑誌で、ひとことで言うと「科学の世界的な大発見のみが掲載される雑誌」である。

http://www.natureasia.com/japan/index.php

例えば、「ヒトゲノムが解読された」とか、「クローン羊が作られた」とかいった、テレビや新聞で報道されるような科学の大発見の多くがこの「ネイチャー」に掲載されている論文である。マスコミは科学記事を書くときに、これら「ネイチャー」などの有名科学雑誌の論文から記事を選んで世間にわかりやすく解説するのである。

研究者は日々実験を行い、何かを発見したら、その結果を論文という形で雑誌に投稿して、世の中にその発見を知らせる。どの雑誌に掲載されるのかは、その研究のジャンルと、「どの程度の大発見か?」というレベルによって選ばれる。世界には、登録されているだけでも約6000(Journal Citation Reports 2005より)の科学雑誌が存在するが、研究者なら誰でも、自分の発見がより多くの人に読まれる雑誌に掲載されたいと願う。新聞に例えると、○×大学新聞よりも、日経や読売新聞の方が、読者数も社会的影響力も絶大であることと同じである。「ネイチャー」は、6000の科学雑誌の頂点に位置する雑誌のひとつであり、そこに掲載されるには、それに値するだけの大発見であるかどうかの厳しい審査が行われる。

「ネイチャー」に掲載されることは、研究者にとって、どのくらい難しいのか?1993年から2003年の11年間で発表された総論文数は東京大学で61610、京大で44550(トムソンISIより; http://www.thomsonscientific.jp/news/press/esi2004/ranking.html)。
この期間にネイチャーに掲載された論文数は東大で207 報、京大で106報となっている(ネイチャージャパンより:http://www.natureasia.com/japan/nature/top10/91-00.php)。東大や京大などのトップクラスの大学でさえ300から400報に1報しかネイチャーには載らないという計算になる。ネイチャーと並ぶ、世界的な米国科学雑誌「サイエンス」や「セル」など幾つかの「ネイチャー級の雑誌」に掲載される論文を含めても、その2倍程度だろう。全国の高校球児が甲子園に憧れるように、「ネイチャー」に載ることは、全国で10万人を超えると言われる研究を生業としている者達の夢なのである。

留学をすると国内で研究するよりも「ネイチャー級」の発見がしやすいのか?という疑問も当然わいてくる。最近では、日本でもネイチャー級の論文を連発する研究室も増えてきたが、やはり、本場、アメリカの一流大学にはかなわないというのが実感である。能力うんぬんの以前に、国と民間団体からの両方の研究資金の豊富さに加え、日本ではなかなか予算のおりないような革新的、挑戦的なテーマでも予算が通る現場を幾つか見てきた。「そりゃ、面白いけど、ちょっと見切り発車じゃない?」というような研究計画にも、ここアメリカでは予算がおりたりする。堅実な研究ばかりに予算がおりているようでは、中規模の発見をコンスタントに出すことはできるかもしれないが、大発見の可能性は低くなってしまう。また、レベルの高い雑誌は、その出版社の多くが米国かイギリスにあり、研究に関する情報はすべて英語で行われるため、情報のやりとりという点でも英語圏の方が有利である。それゆえ、米国で研究する方が口づてで伝わる「生の情報」がいち早く得られ、競争に勝ちやすいという点もある。

この留学生活の中で、本当に「ネイチャー級」の論文が書けるかどうかはわからないが、一応、それを「めざす」生活のなかでわかったこと、感じたことを記していきたいと思う。

トップページ | 2007年2月 »

最近のトラックバック

2019年8月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

オンライン状態

無料ブログはココログ